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レポート

2023年3月30日 設立記念イベント

官民が連携してうめきた2期発の未来を考える、
「うめきた未来イノベーション機構(U-FINO)」が始動。

 一般社団法人うめきた未来イノベーション機構(以下、U-FINO)の設立を記念し、“うめきた楽市・楽座~イノベーションで拓く関西の未来~”をスローガンに、2023年2月、3日間にわたり大阪・梅田で多彩なイベントが開催されました。熱気にあふれた会場の様子をレポートします。

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JR大阪駅とデッキで直結し抜群のアクセスを誇るのが、うめきた先行開発区域のグランフロント大阪。その地下2階にあるナレッジキャピタル コングレコンベンションセンターを主会場として、今回の一般社団法人うめきた未来イノベーション機構(U-FINO)設立記念イベントは開催されました。

見て触れて感じる、次世代型スポーツの体験型イノベーションショーケース

 2023年2月に行われた3日間にわたるU-FINO設立記念イベントで先陣を切ったのが、2月18日にうめきた外庭SQUAREで開催された「Ex-CROSS(エクスクロス)」です。
 JR大阪駅の目の前に4.5ヘクタールの都市公園を整備予定のうめきた2期地区開発事業「グラングリーン大阪」。「みどり」と「イノベーション」の融合拠点の実現をまちづくりの目標に掲げている、うめきた2期地区開発において、U-FINOは公園などの屋外空間を活用したイノベーション創出支援も検討しています。

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スポーツとエンターテインメントやテクノロジーを融合させたショーケース・イベント「Ex-CROSS」。うめきた外庭SQUAREに設けられたステージでは、アスリートとウェルネス企業担当者とのトークショーや、ミュージシャンのライブなどがイベントを盛り上げました。

 U-FINOと大阪商工会議所の共催によるこのイベントは、スポーツとエンターテインメントやテクノロジーの融合によって生まれる新たな価値を気軽に体験してもらおうというイノベーションショーケースです。ふたつある会場のひとつ、サウスラボでは、スポーツ・ウエルネス産業の誇る最新技術や次世代型アクティビティを楽しく体感できるブースが並びました。

 たとえば、TANOTECHが開発したデジタルコンテンツ「TANO」。センサーの前に立つだけで赤外線カメラが身体の動きを認識してバーチャル上に反映し、画面上でスポーツやゲームに参加することができます。遊べるプログラムの種類は200種類以上。体験を終える頃には軽く汗ばむほどの運動量です。「複雑な操作が必要ないので、介護の現場で高齢者向のリハビリやレクリエーションツールとして活用されています」と、TANOTECHの折重武司氏は語ります。

 隣の会場、ノースラボにはボッチャ やブラインドサッカーなどが体験できるスペースが。ほかにも、パリ2024オリンピックで正式種目となるブレイクダンスを人気チームのValuence INFINITIES(バリュエンス インフィニティーズ)に教わりながら一緒に踊れるワークショップや、関西圏の大学のトップ選手たちによる3人制バスケットボール「3×3」の試合も開催。観客を大いに沸かせました。

大学や研究機関の見つめる“最先端”が集合!
「イノベーションストリームKANSAI 6.0」

 その翌週、2月21日、22日にグランフロント大阪コングレコンベンションセンターで開催されたのは「イノベーションストリームKANSAI 6.0」。内容は展示会とセミナーとのふたつに大きく分かれます。

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グランフロント大阪コングレコンベンションセンター内ホールで開催された「イノベーションストリームKANSAI 6.0」。 展示会では、関西の大学、研究機関等による最先端の技術やサービスを体験することができます。

展示会で、すぐそこにある未来に触れる

 展示会は、関西圏の大学や研究機関による最先端の技術や新たな製品やサービス化への期待が高い研究に、来場者に実際に触れてもらう趣向です。公園も整備されるグラングリーン大阪には、一般市民の方も多く訪れる予定です。そのような多様な方々と一緒にイノベーション創出に繋げていくというコンセプトの展示会は、2017年度にスタート。6回目となる今回は、26の大学や研究機関が集まりました。

 同志社大学のブースでは、奈良県明日香村の高松塚古墳壁画に関するVRコンテンツが用意されました。1972年、「世紀の大発見」と呼ばれ、国宝に指定された高松塚古墳壁画は極彩色の壁画でしたが、当時からカビや退色といった劣化の問題に直面していました。そこで同大ではVR技術を使い、7世紀の壁画完成当初の復元画像をもとに、仮想空間上に発見当時の石室を再現。VRゴーグルをのぞくと、あらゆる角度から石室内部に手が触れられそうなリアルな観賞体験ができます。多くの人が興味津々でゴーグルに手を伸ばしていました。

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同志社大学の展示より。VRゴーグルを装着すると、高松塚古墳内部を見学できます。手を伸ばせば触れそうな近さです。発見当時の壁画の状態、劣化が進んだ状態、修復後の状態と3種類の映像を切り替えて楽しめます。

 一方、奈良先端科学技術大学院大学のブースでは、環境音をオノマトペにして視覚化するデバイスが展示されていました。開発の目的は、身のまわりの環境音に気づきにくい聴覚障がい者の支援です。蛇口が閉まり切らず水がポタポタ漏れる音や、ドアをコンコンとノックする音、ガヤガヤする雑踏の音などが、鳴ると同時に文字となってリアルタイムで画面に表示されます。

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聴覚障がい者が認識しづらい環境音。この問題を改善するため奈良先端科学技術大学院大学が開発中のデバイスでは、たとえば机を叩くと、音源と認識された画面上の位置に「コンコン」というオノマトペが文字で表示されます。

 その他、大阪大学産業科学研究所による永久磁石を用いて構造物の健全性をその場で診断できる非破壊鉄筋計測システムや、神戸大学による1滴の涙から癌のリスクを検知する新技術など、興味深い展示がずらり。より豊かで快適な暮らしを実現する製品やサービスのリリースがすぐそこまで近づいていることを、来場者は体感していました。

多様な角度からのセミナーやフォーラムで、U-FINOの目的地を掘り下げる

 セミナー会場では、グラングリーン大阪が視野にとらえるイノベーションの創出や、そのまちづくりについて議論が展開されました。エコシステムデザインをもとに新しい産業の共創を目指すSUNDREDのCEO、留目真伸氏と、ソーシャル経済メディア「NewsPicks」を運営するユーザベース代表取締役の稲垣裕介氏は「関西でのイノベーション創出コミュニティの実現に向けて」というテーマでそれぞれ講演。留目氏は「多様な社会において目的を定め設計図を描いて繋ぎ合わせる作業は”対話”することでしか実現できない」と、オープンフラットな対話をして目的を共創することの重要性を説きました。また、「歴史的にヒエラルキーが明確だった関東よりも、対話をする力は、もともと商人の街だった大阪人が持っている」とも述べました。

 一方、2025年の大阪・関西万博以降の関西経済のあり方を全国の有識者・経済人たちと共に議論し、西から日本を変える「WestShip」というビジネスカンファレンスを開催しているNewsPicksの稲垣氏は「大阪という土地の可能性や興味をもっている人の多さを感じた」と、大阪のポテンシャルの高さを挙げます。両氏とも、世界に発信するイノベーション拠点としてのグラングリーン大阪に大きな期待を寄せていました。
 また、阪急阪神不動産の橋本英仁氏は「うめきた2期のまちづくりについて」と題し、イノベーション活動の起点となるグラングリーン大阪の各施設について詳述。続いて西日本旅客鉄道の小森一氏は、3月18日に開業したJR大阪駅(うめきたエリア)へ導入された、ふすまのように開閉するフルスクリーンホームドアやデジタル可変案内サイン、顔認証改札機などについて解説。身近な駅の話だけに、聴衆も熱心に聞き入っていました。

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西日本旅客鉄道の小森一氏は「大阪駅(うめきたエリア)におけるイノベーションの挑戦」というテーマで講演。2023年3月18日に開業した新駅に導入されたフルスクリーンホームドアなど、一連の画期的な技術を紹介しました。

 1日目、ひときわ盛り上がっていたのが近畿経済産業局の主催による「関西オープンファクトリーフォーラム」です。関西圏で広がりを見せている「地域一体型オープンファクトリー」の動きを牽引する、4つのエリアの事例が紹介されました。最初の登壇者は、オープンファクトリーイベント「FactorISM」の統括プロデューサー、松尾泰貴氏。「こうばはまちのエンターテイメント」を合い言葉に2020年、大阪府八尾市でスタートしたこのイベントは、企業と参加者とが一体となって創り上げる手法が評判を呼び、2022年には八尾市、堺市、門真市など8エリア・企業60社が参加するなど規模が拡大。そこに至るまでの道のりが語られました。
 続いて、オフィス家具メーカー、オカムラの岡本栄理氏、「泉州オープンファクトリー」実行委員長の延生康二氏、2022年11月に「和歌山ものづくり文化祭」を開催した菊井鋏製作所の菊井健一氏がそれぞれ、自身のエリアでの取り組みを説明。そこにファシリテーターの近畿経済産業局の津田哲史氏とパネリストの南海電気鉄道の豊田真菜氏が加わり、ものづくりの現場と地域をと繋ぐ試みについてのトークセッションが行われました。

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常に明るい雰囲気に満ちていた「関西オープンファクトリーフォーラム」。ファシリテーターを務めた近畿経済産業局の津田哲史氏による軽妙なトークで、パネリストの南海電気鉄道の豊田真菜氏をはじめ、登壇者たちもリラックス。まさにオープンな場でした。

 2日目には、「関西で広まる産学官連携によるスタートアップ・エコシステムの推進について」と題し、スタートアップエコシステムコンソーシアム事務局の是洞公紀氏が講演しました。大阪・京都・神戸は2020年、世界に伍するスタートアップ拠点戦略におけるグローバル拠点都市として国から選定され、大学、企業、自治体などが連携したエコシステムの形成に取り組んでいます。
 2024年夏のうめきた2期地区開発「グラングリーン大阪」の先行まちびらき、25年の大阪・関西万博の開催を控える今は、関西が「まさに大きく飛躍できるタイミングだ」と、是洞氏は強調します。反面、「関西ではスタートアップがまだまだ少なく、資金調達金額も足りておらず、成長するための仕組みが十分に整っていない」点が課題であるとも指摘。そうした課題解決のために始まるのが、関西スタートアップインキュベーションプログラム「起動」だと言及しました。
 「起動」とは、関西で事業を立ち上げる・拡大する意欲のある設立5年以内の企業、または創業前の個人やチームに対し、最大1,000万円の活動資金の提供、上場経験のある起業家のメンター陣や専門家への相談といった6カ月間にわたるハンズオン支援など、産官学が連携して事業の成長を強力に支援するプログラムです。関西から世界へ飛躍するスタートアップが生まれる土壌が整いつつあることを感じさせる、力のこもった講演でした。

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世界トップクラスのスタートアップ・エコシステム拠点都市の形成を目的として設立された、「スタートアップエコシステムコンソーシアム」。その事務局の是洞公紀氏による講演は、多くの聴衆を集めました。

アイデアを育てる仲間を探す、「うめきた響合の場」

 「うめきた響合の場」は、うめきた2期のイノベーション創出に向けたトライアル事業として2021年からスタートし、今回で3回目。本イベントでは、関西を代表する企業や大学、支援機関が縁日の「出店」のように集まり、スタートアップなどアイデアをもつ人々からの相談に1対1で応じます。スタートアップの経営者と大企業がマッチングし、共創して新たなイノベーションを起こす貴重な機会ということもあって、会場は熱気に包まれていました。
 2日間で14の企業、6大学、7つの自治体や支援機関などが参画し、面談数は135件を数えました。また、「出店」側がビジョンや独自の取り組み、スタートアップ支援事業などを紹介するミニセミナーも開催され、出会いと共創の機会を創出しました。

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大企業や大学などが「出店」となり、マッチングの機会を見つける「うめきた響合の場」。活発なミーティングが行われていました。

グラングリーン大阪において、U-FINOが果たす役割を考えるシンポジウム

 3日間のハイライトともいえるのが、U-FINOの設立を記念したシンポジウムです。来賓である関西経済連合会会長の松本正義氏と大阪商工会議所会頭の鳥井信吾氏の挨拶の後、U-FINOの中沢則夫理事長は「大阪商人の『やってみなはれ』というチャレンジ精神や『三方よし』『ご贔屓筋』という企業文化は、イノベーションを創出するのに適した土壌を築いた」と前置きし、U-FINOの役割と目指すものについて語りました。
 基調講演では、慶應義塾大学環境情報学部教授、Zホールディングスのシニアストラテジストである安宅和人氏が登壇。「残すに値する未来を考える」と題し、イノベーション拠点となるグラングリーン大阪への期待を語りました。その後は神戸大学大学院経営学研究科教授の忽那憲治氏をモデレーターに、SIRCの代表取締役CEOを務める高橋真理子氏、日本スタートアップ支援協会の代表理事である岡隆弘氏、西日本電信電話イノベーション戦略室長の市橋直樹氏によるパネルディスカッションへ。グラングリーン大阪でオープンイノベーションを進めるうえでの課題と解決策について、意見が交わされました。

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元大和総研特別研究員で、JETROサンフランシスコ事務所長などを歴任した中沢則夫・U-FINO理事長。U-FINOの設立を記念したシンポジウムで、機構の役割や目指すものを語りました。

医療・ヘルスケア業界のオープンイノベーション・エコシステム構築を考える
「Medtech Connect Osaka 2023」

 3日間の掉尾を飾ったのは「Medtech Connect Osaka 2023」です。Medtech Connectとは医療業界が交流・連携するコミュニティのイベントで、2016年よりアメリカ、シンガポール、日本、台湾の各地で開催されてきました。日本での開催は3回目となります。今回のテーマは、大阪の地で医療・ヘルスケア業界のオープンイノベーション・エコシステムをどう構築していくかについて。塩野義製薬の代表取締役会長兼社長、手代木功氏や、ケンブリッジコンサルタンツのチーフ・コマーシャル・オフィサー、リチャード・トレハーン氏など、多彩なゲストを迎えた意義深いプログラムとなりました。
 基調講演を務めたのは、大手製薬会社アストラゼネカの執行役員、トーステン・カーニッシュ氏。同社が2020年に立ち上げた、日本発のヘルスケア・オープンイノベーションエコシステム「i2.JP(アイツー・ドット・ジェイピー)」の取り組みを解説し、わずか2年で280以上のパートナーが集まり、80件以上のビジネスマッチングが成立した背景を語りました。続いて、医療・ヘルスケア分野のスタートアップを支援し、アジア太平洋地域のメドテックエコシステムの構築を推進してきたオーストラリアのメドテック・アクチュエーターのCEO、バズ・パーマー氏ら各界のキーパーソンが次々と登壇。個別セッションやパネルディスカッションで議論が深まっていきました。

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2025年までに「イノベーションで患者さんの人生を変えるNo.1パイオニア企業になる」というビジョンを掲げる、アストラゼネカ。「Medtech Connect Osaka 2023」では同社の執行役員トーステン・カーニッシュ氏が基調講演を行いました。

 こうして、さまざまなプログラムが開催された3日間。21日には全編英語で進行する関西最大級のイノベーションイベント「Hack Osaka2023」も同じ会場内で同時開催されました。行政、研究者、起業家や投資家、大企業のCEOから町工場の技術者まで、組織や国籍を越えて多様な人々が集い交流を深める様子は、来夏に先行まちびらきを迎えるグラングリーン大阪がまさに目指す光景。多様なアイデアの共創とイノベーションの萌芽を目にできる日は、もうすぐです。

●文:脇本暁子 写真:木村正史、内藤貞保、東谷幸一

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