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レポート

2023年3月30日 設立記念イベント

うめきた未来イノベーション機構(U-FINO)に寄せる、
各界からの期待の大きさが見えた設立記念シンポジウム。

 2024年夏、うめきたエリアの新しいまちびらきに向け開発が進むうめきた2期地区開発プロジェクト「グラングリーン大阪」。この次世代の都市を世界に発信するため、官民が連携を強めてイノベーションを加速させるべく設立された組織が、一般社団法人うめきた未来イノベーション機構(以下、U-FINO)です。設立を記念して開催されたシンポジウムは、人々の期待の大きさを感じさせるものでした。

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2023年2月22日に行われた、一般社団法人うめきた未来イノベーション機構(U-FINO)設立記念シンポジウム。開会にあたり、来賓である関西経済連合会会長の松本正義氏(写真左)、大阪商工会議所会頭の鳥井信吾氏(右)と、U-FINOの中沢則夫理事長(中央)とが力強く握手を交わしました。

 関西最後の一等地といわれるグラングリーン大阪は、都市公園を中心にオフィスやホテル、商業施設、MICE施設などが一体となった大規模複合開発プロジェクトです。『「みどり」と「イノベーション」の融合拠点』をまちづくりの目標に掲げ、イノベーション推進の中核機能を担う運営法人として、U-FINOは2022年9月13日に設立されました。

 U-FINOの前身は、2017年に設立した「うめきた2 期みどりとイノベーションの融合拠点形成推進協議会」。大阪府、大阪市及び関西経済連合会、大阪商工会議所、都市再生機構、大阪科学技術センターと官民が協働して約5年間、活動してきました。その知見を活かし、グラングリーン大阪開発事業者と行政、経済界が一丸となった法人がU-FINOです。参画機関が持つネットワークやノウハウを活かし、新技術を持つ研究者や事業者などの多様な人材を繋げ、プロジェクト創出などをコーディネートする組織として、大阪・関西における今後のイノベーション支援に取り組むのが使命です。

アジアのイノベーションハブ構築を目指し、タッグを組む大阪経済界

 2月に3日間にわたり開催されたU-FINO設立記念イベントの一環として、22日にグランフロント大阪ナレッジキャピタル コングレコンベンションセンターで行われたシンポジウムは、来賓である関西経済連合会会長の松本正義氏の次のような挨拶から始まりました。「うめきた2期は、2025年の大阪・関西万博後の関西にとって成長のカギとなります。このようなイノベーションの拠点となる施設ができる意義はたいへん大きく、そこでマッチングや共創から新たなアイデアを生むために、U-FINOの役割はきわめて重要。中沢理事長のリーダーシップのもとグローバルな視点を持ち、関西の交通の結節点として、アジアのイノベーションハブになることを目指していただきたいです」

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来賓として登壇した、関西経済連合会会長であり、住友電気工業会長の松本正義氏。大阪・関西万博の誘致段階から中心的な役割を果たしてきました。

 続いて来賓挨拶に立ったのは、大阪商工会議所の会頭である鳥井信吾氏。「グラングリーン大阪は大阪駅前の中心街でありながら、世界でも類のない、自然と一体感を得られるまち。大阪商工会議所では医療・ヘルスケア分野において全国230の大学、医療機関、企業と連携し、国際的な医療事業のイノベーション・エコシステムを構築し、国際競争力のあるスタートアップを育成・支援していこうとしているところです。U-FINOとタッグを組み、その実現に積極的に協力したいと思っています」と、U-FINOとの連携を強める決意を表明しました。

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もうひとりの来賓は、大阪商工会議所会頭を務める、サントリーホールディングス副会長の鳥井信吾氏。「やってみなはれ」は、自身の祖父でありサントリーの創業者である鳥井信治郎氏の名言。失敗を恐れず挑戦することを重視した企業精神の象徴として有名です。

イノベーションを創出するのに適した、大阪文化という土壌

 U-FINOの事業説明に際し、中沢理事長はこう述べました。「関西経済の強みは『ものづくり』であり、特に、大阪にはイノベーションが起きやすい土壌があると考えます。理由のひとつは、大阪独特の距離感やお笑いの文化です。加えて、関西企業の『やってみなはれ』や『おもしろおかしく』というしなやかな企業精神や、『三方よし』や『ご贔屓筋』というしたたかな企業文化も、イノベーションを創出するのに適した環境だと言えます」

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「U-FINOが目指すもの」と題して事業説明を行う、U-FINOの中沢理事長。開発事業者、行政、経済界が官民一体となって、新技術を持つ研究者や事業者などの多様な人材を繋げ、プロジェクト創出などをコーディネートする世話役となるのがU-FINOです。

 そこから、U-FINOの価値観として5つの”D”と3つの”F"を定めたという中沢理事長。「Dynamism(ダイナミズムの重視)、Diversity(多様性の重視)、Decentralization(分散志向)、Dignity(尊厳の重視)、Discipline(節度の重視)の5つのD。それと、Freedom(自由であれ)、Flexibility(柔軟であれ)、Fairness(公正であれ)の3つのFで、とにかくスピード感を持って取り組んでいく。失敗を恐れずに、根回しは後回しで、とにかく事業を推進していきます」

共創を生み出すためには、コミュニティ作りが肝要

 「社会課題の解決や新産業創出に向け、情報・人・技術などをグラングリーン大阪に集めることで、 新しい製品・サービスやビジネスが生まれるエコシステムを構築し、大阪・関西におけるイノベーション創出を推進」することをビジョンとして掲げるU-FINO。「そのためのオープンイノベーション推進に向けて、コミュニティを作っていきます。グラングリーン大阪には、スタートアップ、大手企業の新規事業部門や大学の研究者たち、そして中小企業のものづくりなどを中心に多様な人々が集います。そうした方々を繋ぎ、支援していく『うめきた共創コミュニティ』なるものを作り、管理運営していく予定です」と、中沢理事長は述べました。

 続く基調講演では、慶應義塾大学環境情報学部教授、Zホールディングスのシニアストラテジストである安宅和人氏が登壇。「残すに値する未来を考える」と題し、世界や日本の置かれている「決して楽観視できない」と安宅氏の見る現状と、それゆえに期待を抱いているというイノベーション拠点としてのグラングリーン大阪への想いを熱く語り、聴衆を魅了しました。

イノベーションを起こす場を、どう作っていくか

 シンポジウムの最後を飾ったのは、「いま考える課題―そしてうめきた2期の道しるべ―」というテーマのパネルディスカッションです。神戸大学大学院経営学研究科教授の忽那憲治氏をモデレーターに、大阪市立大学発のベンチャー、SIRC(サーク)の代表取締役CEOを務める高橋真理子氏、日本スタートアップ支援協会の代表理事である岡隆弘氏、西日本電信電話でイノベーション戦略室長を務める市橋直樹氏が登壇しました。

 SIRCは、5mm角チップの超小型センサーの開発で知られる大学発のベンチャーです。一方、上場経営者にしかわからない失敗や経験といったノウハウを提供し、起業家支援に取り組むのが日本スタートアップ支援協会。また、西日本電信電話(NTT西日本)は大阪の京橋に、オープンイノベーション共創空間「QUINTBRIDGE(クイントブリッジ)」をオープンしたばかり。それぞれ異なる背景からイノベーションにかかわる登壇者たちに、進行役の忽那氏は「グラングリーン大阪を今後どのような存在へとしていけばよいか、そこで画期的なオープンイノベーションを進めていくにはどうしたらよいか」という問いを投げかけました。

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シンポジウムのモデレーターを務めたのは、神戸大学大学院経営学研究科教授の忽那憲治氏。 神戸大学発ベンチャー企業の投資育成事業などを行う科学技術アントレプレナーシップの取締役、イノベーション・アクセルの取締役、産業革新投資機構の社外取締役でもあります。

 大阪のスタートアップ企業が抱える最も深刻な悩みは、資金調達の問題。そこを知る岡氏は、「スタートアップ企業が、グラングリーン大阪に来たらいつでもベンチャーキャピタルに会える、エンジェル投資家に会えるといった環境や仕組みづくりが大切」と語りました。

 人材確保という課題について、意見を述べたのは高橋氏です。「新しいまちでは、ベンチャーの姿が当たり前のように目にできるようになるといいですね。たとえば、大阪駅からグランフロント大阪までの空間でいろんなイベントを企画する。何かの実証実験だったり、新しいプロダクトやサービスのプロモーションだったり、それらを通じて発信元のベンチャーを知ってもらい、就職先や転職先のひとつに考えてもらえればと期待しています」

 オープンイノベーションを進めるにあたり、グラングリーン大阪にどんな仕組みがあれば大企業がコミットしやすいかという問いに、市橋氏はこう答えました。「実は、大企業でスタートアップとの連携の窓口となる担当者も、スキルや情報のなさに悩むことが多いのです。そんな担当者たちの間に横の連携ができるコミュニティがあれば、考え方や温度感も変わるはずです」

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パネルディスカッションに臨む三者。左から、西日本電信電話のイノベーション戦略室長・市橋直樹氏、日本スタートアップ支援協会の代表理事・岡隆弘氏、SIRCの代表取締役CEO・高橋真理子氏。

 このように、立場は違えど、三者のいずれもがイノベーション創出における人と人との繋がりの大切さを強調していたのが印象的でした。みどりあふれる公園を中心に、まもなく先行まちびらきを迎える、グラングリーン大阪。多様な人々が集い、繋がり、共創するこの地でU-FINOの果たす役割に大きな期待が寄せられていることが、登壇者の発言の端々に感じられたシンポジウムでした。

●文:脇本暁子 写真:内藤貞保

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