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レポート

2023年3月30日 設立記念イベント

グローバルな視点で日本のヘルスケアを考える、
「Medtech Connect Osaka 2023」

 うめきた未来イノベーション機構(以下、U-FINO)の設立を記念して2023年2月に行われた一連のイベントを締めくくったのは、「Medtech Connect Osaka 2023」。国内外の医療・ヘルスケア業界から有識者が招かれ、グローバルな視点から日本のヘルスケア・エコシステムについて議論するシンポジウムが行われました。

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うめきた未来イノベーション機構(U-FINO)の設立記念イベントの掉尾を飾った「Medtech Connect Osaka 2023」。日本の医療・ヘルスケア業界のこれからについて、講演や鼎談が活発に行われました。

 近年のDXの流れや、コロナ禍による遠隔医療や非接触型モニタリングへの需要の高まりにより、大きな変革期を迎えている医療・ヘルスケア産業。この分野で日本の国際競争力を高めていくためには、新たな価値を生み出す研究開発やスタートアップの育成を、グローバルな視点から推進していくことが求められています。

 3日間にわたったU-FINOの設立記念イベントでも、最終日の2月22日に「Medtech Connect Osaka 2023」というシンポジウムが、グランフロント大阪ナレッジキャピタル コングレコンベンションセンターで開催されました。Medtech Connectとは、医療・ヘルスケア業界における議論・情報交換・交流を促進するためのネットワーキングイベント。これまでアメリカ、シンガポール、台湾で開催されており、日本では昨年の大阪に引き続き3回目の開催となります。今回は「未来の健康・医療をかたちづくるイノベーション創出に向けた日本の挑戦」をテーマに、海外のヘルスケア・エコシステムとのネットワーク構築の必要性や、海外から見た日本の強みなどについて考える場が設けられました。

日本のヘルスケア業界は、国際的に発展していくチャンスがある

 開会の挨拶は、塩野義製薬の代表取締役会長兼社長である手代木功氏が務めました。同社は持続的な社会を実現するために、医療としてではなくサービスとしてのヘルスケアを提供する「HaaS(Healthcare as a Service)企業」を目指しています。

 「その中で実感するのは、日本は予防や健康維持の取り組みは世界と比べると遅れていることです」と手代木氏。「日本のヘルスケア業界をよりよくしていくためには、もっと国際市場にアプローチしていくべき。日本にはそのチャンスがあります」と語りました。

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「Medtech Connect Osaka 2023」開会の挨拶を行う塩野義製薬の代表取締役会長兼社長、手代木功氏。今回のイベントに期待することを語りました。

単独でイノベーションを起こすのが難しい時代に、どう舵を切るべきか

 続いて登壇したのは、ケンブリッジコンサルタンツのチーフ・コマーシャル・オフィサー、リチャード・トレハーン氏です。60年以上にわたり。世界のエコシステムと連携しながら革新的なイノベーションを創出してきたケンブリッジコンサルタンツ。その視点から、日本の医療・ヘルスケア業界におけるエコシステムの構築について意見を述べました。

 トレハーン氏は、日本のヘルスケア業界にはイノベーションを興すためのエコシステム形成の仕組みが十分に整っていないことを指摘。「世界中でテクノロジーが広がり、深まっていく中で、単独でイノベーションを起こすことは困難になっています。日本のヘルスケア業界が抱える、研究と産業化の間にあるギャップなどの問題を乗り越えていくためには、エコシステムをどう形成するかがカギとなるはず」と語りました。さらに、こう続けました。「エコシステムを成熟させれば、個社内で事業を行うべき事例と、パートナーと共創しながら事業を行うべき事例とを正しく判別し、理解し、迅速に選択することができるようになります。そうなれば、日本のイノベーションはもっと加速していくことでしょう」

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オープニングセッションに登壇したケンブリッジコンサルタンツ チーフ・コマーシャル・オフィサーのリチャード・トレハーン氏。同社のエコシステム構築について解説しました。

日本発のエコシステムで、共創していける社会へ

 トレハーン氏が言及したエコシステム構築の第一歩を踏み出している企業が、大手製薬会社のアストラゼネカです。同社は日本発のヘルスケア・オープンイノベーション・エコシステムである「i2.JP(アイツー・ドット・ジェイピー)」を開設。執行役員でコマーシャルエクセレンス本部長を務めるトーステン・カーニッシュ氏が、その取り組みを解説しました。

 「i2.JP」は、日本全国で20カ所以上のネットワークを構築しています。「日本には、安定した医療制度、テクノロジーやデータがあります。加えて、素晴らしい文化もあります。それにもかかわらず、スピード感のなさ、繋がりの弱さという問題を抱えている」と指摘するカーニッシュ氏。エコシステム構築の取り組みを通じ、ヘルスケア業界の繋がりをより強固にし、共創していける社会を作りたいと語りました。

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キーノートを担当した、アストラゼネカ執行役員コマーシャルエクセレンス本部長のトーステン・カーニッシュ氏。カーニッシュ氏は、アストラゼネカで日本のイノベーションを推進しています。

創業者を「スーパーヒーロー」としてとらえる

 イノベーション創出のためには、エコシステム構築の仕組みを整えるだけでなく、スタートアップの育成をグローバルな視点で推進することも重要です。そこに寄与しているのが、メドテック・アクチュエーター。同社は、医療・ヘルスケア分野において医工連携を促進するスタートアップ企業を育成するアクセラレーション・プログラムを展開しています。

 登壇した同社CEOのバズ・パーマー氏は、「創業者はスーパーヒーローであり、未来のイノベーションを生み出す者として重要な役割を果たします」と力説。そんな思いのもと生まれたプログラム「ORIGIN」は、マーベル・コミックのキャラクターであるウルヴァリン誕生の物語の副題から名付けたそうです。

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メドテック・アクチュエーターのプログラムを紹介する、CEOのバズ・パーマー氏。同社はオーストラリアのメルボルンで連邦政府、州政府のサポートを受けて設立されました。

 2022年にORIGINの大阪での予選を通過し、日本代表としてメルボルンでの本選に臨んだのは、身体の強いかゆみに対して錯覚を利用した新しいデバイスでの解決を提案する大阪大学発のスタートアップ、大阪ヒートクール代表取締役の伊庭野健造氏です。パーマー氏に続いて登壇した伊庭野氏は、プログラムで得られたのは想像以上の学びと、多様な背景を持つ人たちとの繋がりだったと語りました。「印象に残っているのは、失敗という経験の大切さです。我々は毎日何かを決断していく中で、ときに間違った選択をするかもしれません。しかし、失敗することで得られる経験もあるのだと、プログラムでは実感しました」

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Medtech Actuator ORIGIN 2022プログラムのファイナリストである、大阪ヒートクール代表取締役の伊庭野健造氏。同社が手がける、温冷錯覚を用いたかゆみ緩和デバイス事業についても説明がありました。

リスクを恐れず挑戦できる環境作りが、イノベーションへの第一歩

 シンポジウムの最後を飾ったのは、登壇者によるパネルディスカッション。日本でよりよいエコシステムを形成するためにはどうしたらいいか、グローバルなイノベーションを加速していくためには何が必要なのかなど、さまざまなテーマで議論が交わされました。

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パネルディスカッションの参加者たち。左から、ケンブリッジコンサルタルタンツのヤン・リン・ライ氏、アストラゼネカのカーニッシュ氏、大阪ヒートクールの伊庭野氏、メドテック・アクチュエーターのパーマー氏、日本メドトロニックの増田弘志氏。
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冒頭、日本メドトロニックのシニア・ストラテジー&ビジネス・デベロップメントマネージャー、増田弘志氏が登壇し、ディスカッションのテーマをプレゼンしました。

 議論がひときわ白熱したのは、グローバルなイノベーションを加速させるため、大企業とスタートアップとが築くべき関係性についてです。カーニッシュ氏は「日本の企業には技術があり、イノベーションを起こす力もありますが、特に大企業は、知的財産を所有するためにイノベーションを個社で内製しようとする傾向があるように思えます」と指摘。もっと外に開き、スタートアップなどと連携する必要性があると述べました。

 一方、パーマー氏は、「起業家の挑戦にはリスクがつきものなのに、日本にはハイリスクに投資できる環境が整っていないようです」と発言。さらに聴衆の心を動かしたのは、「イノベーションを加速させ、世界に広がるエコシステムを形成していくためには、スタートアップや起業家に、挑戦は成功に繋がるというサクセスストーリーを見せる必要があるのです」というコメントでした。挑戦できる環境を整えればイノベーションも加速し、世界に期待されるエコシステムが構築されていくはず、とパーマー氏は続けました。

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パーマー氏の言葉に大きく頷く登壇者たち。

 それを受け、ディスカッションのテーマを冒頭で示した日本メドトロニックの増田弘志氏は、「ハイリスクな挑戦を受け入れ、挑戦者たちが夢を追い、世界のヘルスケア市場を変えられる日本にしていく必要があります。そのために、我々はこれまでの考え方を変え、日本のヘルスケア業界を能動的に変化させていくという意識を持つ必要があります」と発言。参加者一同、大いに頷き、ディスカッションは幕を閉じました。

 日本の医療・ヘルスケア業界は今、変革の時を迎えています。グラングリーン大阪のまちに、挑戦をしたい人々が集い、医療・ヘルスケア業界が想いをひとつにできれば、世界が注目するイノベーション創出に繋がるのではないか――そんな未来図が見えたイベントをもって、3日間にわたるU-FINO設立記念イベントは終了しました。

●文:藤岡優希 写真:内藤貞保

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